保険学雑誌 第595号 2006年(平成18年)12月

中国保険市場の歴史,現状及び課題

陳玉領

■アブストラクト

 1978年の改革開放以来,中国保険市場も飛躍的な発展を遂げている。いま,中国の保険市場は世界に数少ない高成長の市場のひとつである。中国保険市場の高成長を支えている需要要因は,経済の持続的発展,市場経済への移行に伴うリスクの増大,急速に進む高齢化など社会構造の変化が挙げられる。
 中国保険市場は国有系保険会社による寡占の状態が続いているが,外資系の伸びも注目されている。保険商品と保険販売チャンネルの急激な変化から中国保険市場は未熟な市場であることがわかる。
 中国保険市場の持続的成長は重要な課題となっている。持続的成長を実現するためには,保険会社の企業制度とコーポレート・ガバナンス,リスクマネジメントと保険監督,農村保険など課題を解決しなければならない。

■キーワード

 中国,保険市場,経済移行

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 1 − 20

故意免責における故意について

山本 哲生

■アブストラクト

 保険契約者等の故意によって生じた損害について保険者を免責するという故意免責規定に関して,故意の意義,故意の対象が論じられている。特に故意の対象の問題については,様々な議論がなされているが,基本的な対立点の源は故意免責において保険契約者等の主観的態様における悪性をいかに位置づけるかにあるものと思われる。本稿では,故意免責は主観的態様における悪性に対する否定的評価に基づくものではなく,保険者の保険引受上の問題であるとの見地から,これらの問題についての解釈論を検討する。

■キーワード

 保険事故招致,故意免責,免責事由

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 21 − 39

日本の事業会社によるキャプティブ保険会社の設立・利用を巡る法的論点

吉澤 卓哉

■アブストラクト

 本稿は,国内キャプティブ・海外キャプティブ,元受キャプティブ・再保険キャプティブのそれぞれについて,キャプティブ保険会社の設立,リスク移転契約の法的性質,親会社・キャプティブ保険会社間の通謀,キャプティブ保険会社の倒産リスクといった,日本の事業会社によるキャプティブ保険会社の設立・利用を巡る法的論点を検討したうえで,日本におけるキャプティブ保険会社法制の創設可否を論じるものである。

■キーワード

 キャプティブ保険会社,海外直接付保規制,特別利益の提供

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 41 − 60

保険と老後設計

佐々木 一郎

■アブストラクト

 国民年金は,保険の1つである終身年金を,国が強制加入させるものである。現在のわが国の高齢者にとって,国民年金は非常に重要な老後準備手段となっている。だが周知のとおり,国民年金をめぐっては若年世代を中心に,未加入・未納が社会問題化している。若年世代の国民年金未加入・未納理由を明らかにすることは,人々の老後基盤を強固にするうえで重要な研究課題の1つである。本研究では,国民年金未加入・未納理由のうちこれまで未知であった要因として,加入義務意識に着目した。若年世代(大学生)を対象にしたアンケート調査データに基づく分析の結果,加入義務意識は国民年金加入・未加入行動に影響を及ぼしていること,さらに,年金不信による未加入誘発効果を抑止していることが示唆された。

■キーワード

 老後設計,年金未加入・未納問題,加入義務意識

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 61 − 77

日系生命保険会社の中国進出に関する一考察

史 新秀

■アブストラクト

 WTO加盟による中国保険市場の開放に伴い,外資系保険会社の中国保険市場への進出が容易になった。こうした環境の中,日系生命保険会社の大手である日本生命と住友生命は,それぞれ中国の上海と北京で合弁生命保険会社を設立した。
 本研究は日本生命と住友生命の中国進出をケースに取り,両社が中国へ進出するに際してどのような問題に直面しているかの分析を行った。日系生命保険会社の中国進出には,⑴パートナーの選択,⑵販売チャネル,⑶人材の育成,⑷収益性の増大といった課題を克服していく必要がある。特に販売チャネルの確保と人材育成の問題をどのように解決していくのかが,今後の事業展開の鍵として模索しなければならない重要なポイントである。

■キーワード

 中国保険市場,日系生保の中国進出

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 79 − 97

ドイツにおける生命保険契約の透明化の動向について

―連邦憲法裁判所及び連邦通常裁判所判決の影響を中心として―

金岡 京子

■アブストラクト

 2008年1月1日施行を目指し大改正作業中のドイツ保険契約法は,連邦憲法裁判所判決及び連邦通常裁判所判決と双方向から影響を及ぼし合う形で,生命保険の現代化としての透明性強化を目指している。本稿では,その社会的背景と判決内容の分析を通して,日本法にとって重要な課題を示唆する。

■キーワード

 生命保険の現代化,既契約約款の変更,基本権保護義務

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 97 − 116

確率的フロンティア生産関数による生命保険会社の生産性測定と新しい経営効率指標の提案

久保 英也

■アブストラクト

 この論文は,バブルの清算から現在までの厳しい環境変化に翻弄された日本の生命保険会社の経営効率の変化を追う中で,生命保険業を対象に生産関数を推計する際の課題を明確化にすると共にそれを踏まえた新しい経営効率指標の提案を目的とする。
 経営効率性の計測にどのような関数形(コブ・ダグラス型,トランスログ型など)や計測方法(パラメトリック,ノン・パラメトリック)を用いても,生産物の選択により,生産性の計測結果が大きく左右される。生産関数の推計には,保険会社の行動原理にあった生産物の選択が求められる。
 個別会社の生産性の計測には,修正基礎利益を生産物とした生産性が重要であり,確率的フロンティア生産関数の手法により計測した生産性を標準偏差で除した「E/R指数」が,生命保険会社の経営効率を評価する指標としてふさわしい。

■キーワード

 修正基礎利益,確率的フロンティア生産関数,E/R指数

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 117 − 136

英米の弱体者年金について

青山 麻理

■アブストラクト

 先進諸国では要介護者の増加が見込まれているが,保険会社が特に高齢期の要介護状態を保障するような商品を提供しようとすると,価格が高くなってしまうという問題に行き当たる。
 そうした課題について,米国では,個人年金と長期介護保障特約を組み合わせて終身年金と介護保険の逆選択効果の相殺を利用することで,より魅力的な価格で商品提供を行っている例がある。また,そうした組み合わせ商品を含む介護商品への優遇税制措置も検討されている。
 一方,英国では一般的に重大疾病保険が要介護状態を保障しており,保険会社は重大疾病保険と死亡保障保険を組み合わせる(アクセレレーション)ことでより安い価格で商品提供を行っている。

■キーワード

 弱体者年金,介護年金,ディサビリティ

■本 文

『保険学雑誌』第595号 2006年(平成18年)12月, pp. 137 − 155