保険学雑誌 第655号 2021年(令和3年)12月

地震保険とJA「建物更生共済」の比較

—商品・仕組,保険と共済の違い,査定態勢—

岩田 恭彦

■アブストラクト

 東日本大震災では政府および民間の地震保険から巨額の地震保険金が支払われ公助の補完となる自助の役割を担った。一方,協同組合等が実施する共済からも共済金が支払われ,特にJA「建物更生共済」からは巨額の共済金が支払われた。
 JA「建物更生共済」は,1954年の仕組開発以来,半世紀に渡り実施されている仕組であり,1961年から2008年に至る40年に渡り地震保険を超える保有契約を有し,その地震補償により地震に対する自助の一端を担ってきた。
 建物更生共済は,JAが推進を行う共済であるが,連合会組織である全共連が危険を保有する制度共済であり協同組合としての組織的な特徴に共済と保険の違いを見出せる。また,その仕組については,共済の対象種類,範囲,共済期間,共済金の算出方法,傷害共済金,全国一律の掛金体系などに地震保険との違いがあり,補償範囲がやや広い特徴を有する。
 JA共済は大規模地震を含め自然災害に対して,全国のJA組織による独自の査定態勢を構築し円滑な査定を実施しており,近年はICT技術を活用した損害査定の迅速化を促進している。
 地震保険や保険商品と異なる経過を経て発展したJA「建物更生共済」であるが,歴史的にも地震に対する自助への貢献は高く,これを適切に評価する必要がある。

■キーワード

 建物更生共済,制度共済の本質,共済と保険

■本 文

『保険学雑誌』第655号 2021年(令和3年)12月, pp. 1 − 30

ネットワーク理論と機関投資家の協調行動

—英国保険者協会,機関投資家向け議決権情報サービス及びインベスター・フォーラムの動向を踏まえて—

溝渕 彰

■アブストラクト

 本稿は,機関投資家の株主総会における投票行動につき機関投資家同士の繋がりやインセンティブがどのように影響しているかについていわゆるネットワーク理論を用いた分析を紹介し,若干の考察を加えたものである。コンドルセの陪審定理を株主総会の議決権行使の場面で適用した場合,機関投資家の協調行動があると,議決権行使コストは削減できるが,投票の独立性が損なわれるため正しい判断に至る可能性は低下する。機関投資家が協調行動を取ることは,機関投資家の利得・ペイオフを高めるものであり,このような協調行動を促進する役割がフォーマルなネットワークにおいて期待される。また,フォーマルなネットワーク等において機関投資家が共通する株式を保有した「クリーク」を形成している場合,協調によるコスト削減効果が正しい意思決定を行う確率を低下させることを補って余りある場合にのみ,「クリーク」のメンバーは協調することになる。

■キーワード

 機関投資家,ネットワーク理論,クリーク

■本 文

『保険学雑誌』第655号 2021年(令和3年)12月, pp. 31 − 53

無人自動運転のためのドイツ法改正

—民事責任および保険の観点からの検討—

金岡 京子

■アブストラクト

 本稿は,限定地域での無人自動運転移動サービスに対応したドイツの法改正(2021年7月27日公布)において,特に民事責任と保険に関係する規定に着目し,日本における今後の法整備の在り方について検討した。具体的には無人自動運転移動サービスを可能にするSAE自動運転レベル4の車両を公道で運行するために備えるべき自律運転装置の要件,保有者,遠隔監視者および製造者の義務,自律運転中に保存すべきデータの種類,保存方法,保存義務者,保存義務者から交通事故被害者へのデータの引渡し義務,上記データの利活用等について定めたドイツの法改正について,民事責任および保険の観点から検討した。その結果,無人自動運転移動サービスにおいては,車両を遠隔監視し,必要な場合は車両に運転操作を指示し,また緊急時に車両内の人を救護するための義務等を負う遠隔動作指令者の民事責任に対応する保険の制度設計が必要であることが明らかになった。ドイツのように自動車保険で交通事故被害者保護を図ったうえで,真の加害者に求償する制度設計は,レベル3までの自動運転だけでなく,レベル4の自律運転においても妥当であるならば,今後の日本における無人自動運転に対応した保険制度設計において参照可能であると考えられる。

■キーワード

 無人自動運転移動サービス,民事責任,自動車保険

■本 文

『保険学雑誌』第655号 2021年(令和3年)12月, pp. 55 − 76