保険学雑誌 第593号 2006年(平成18年)6月

収益力評価による生命保険会社の経営破綻リスクの早期把握

―ソルベンシーDI,CI,修正基礎利益の乖離率からなる複線型指標の提案―

久保 英也

■アブストラクト

 この論文は,業界40社のうち7社が経営破綻した日本の経験から,リスク・ベースド・キャピタル(以下,RBC と略す)方式の健全性基準だけでは新BIS が示す新しい金融の方向を満たすのは難しいと考え,生命保険会社の破綻を事前に察知する複線型健全性指標を提案する。
 RBC 方式の健全性指標(日本のソルベンシー・マージン基準もこの一つ)は,最低必要ソルベンシーの算出には適しているものの,破綻を十分に予測し得ないのに加え,複雑な内容や提供頻度の少なさから常時モニターになじみにくい。いわば市場規律が働きにくいなどの問題を有している。
 今回開発した健全性指標は,主に,時価の貸借対照表とリスク係数に立脚するRBC 方式に対し,損益計算書と販売統計を基に保険会社の収益力に着目した健全性指標である。「ソルベンシーDI」,「ソルベンシーCI」により生命保険業界全体の経営破綻リスクの動向を多面的に捉えると共に「修正基礎利益の乖離率」により,危険な状況に陥りつつある個別会社を事前に抽出する。

■キーワード

 修正基礎利益,ソルベンシーDI,ソルベンシーCI

■本 文

『保険学雑誌』第593号 2006年(平成18年)6月, pp. 1 − 30

企業火災利益保険リスク評価における今日的課題

山崎 賴美

■アブストラクト

 戦略的企業経営における,営業中断リスクの損失エクスポージャー把握・分析の意義について述べる。本研究では,制約条件の理論(TOC 理論)で希求されるスループット(総利益)と,火災利益保険によりリスク移転される営業利益と業務費用との類似性の検証を行う。現代企業のリスク・マネジャーによる営業中断リスクに対する意思決定プロセスにおいて,利潤最大化の目的(objective)である総利益(火災利益保険金額)の損失最小化に関する方策としての火災利益保険の意義について確認を行う。そして,社会政策,自然災害リスクや産業基盤の変化が影響を及ぼす構外やユーティリティ施設の供給停止など,今日の企業を取り巻く経営中断リスクと企業火災利益保険の有効性についての検証を試みる。

■キーワード

 1.Theory of Constraints(制約条件の理論)
 2.Throughput(スループット)
 3.Business Interruption Risk Management(火災利益リスクマネジメント)

■本 文

『保険学雑誌』第593号 2006年(平成18年)6月, pp. 31 − 50

韓国型退職年金制における受給権保護と今後の課題

申文植,柳建植,李鳳周

■アブストラクト

 韓国の退職年金制度における現在の受給権保護の装置だけでは,企業や退職年金事業者が倒産した場合に,実質的な受給権の確保は難しい。そのため,短期的には,積立金の水準を100分の60以上とし,積立て水準の年次的な上向調整が必要である。長期的には,アメリカの年金給付公社(PBGC)のような別の受給権保証機構が必要である。また,受託者責任を明確にし,免責条項の制定や違反の際の制裁などと関連する制度的な補完が必要である。さらに,保険計理士などを通じて責任準備金の適正性を確認し,検証するとともに,会計監査の際には,保険計理士の意見を反映して年金財政の適正性の検証が充実に行われることが望ましい。

■キーワード

 受託者責任,受給権保護

■本 文

『保険学雑誌』第593号 2006年(平成18年)6月, pp. 51 − 69