保険学雑誌 第624号 2014年(平成26年)3月

約款に関する規律と生命保険契約

白砂 竜太

■アブストラクト

 民法(債権関係)の改正に関する中間試案では,約款に関する規律の創設,具体的には,①組入れ要件(約款を契約の内容とするための要件),②不意打ち条項規制(合理的に予測できない約款条項の組み入れ除外),③約款使用者による約款の変更,④約款を対象とする不当条項規制が示されている。
 生命保険契約は生命保険約款により取引され,生命保険約款では給付の内容,具体的には「保障」の内容が記述されている(給付記述条項)。一般論として,保険約款中の保障の内容に関する規定の法的効力が不安定になると,保険給付の対象が拡大し,保険の技術的基礎である収支相等の原則,給付反対給付均等の原則を維持できなくなる可能性がある。
 保険契約の上記のような特徴は,約款に関する規律の適用(検討)にあたって十分に考慮すべき事情であると考える。

■キーワード

 民法(債権関係),約款規制,給付記述条項

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 3 − 21

保険契約の締結過程および内容への債権法規律適用に関する課題

西羽 真

■アブストラクト

 本稿は,民法(債権関係)の改正に関する中間試案における提案が保険契約の締結過程および内容に与える影響について,検討するものである。
 「情報提供義務」は,ほぼ同時期に保険業法規制への導入も提言されているものであるが,両規制は協働して規律を形成し,射程が共通する部分においては保険業法規制が民法規律の具体的基準となり得る。また,「契約の解釈」は,主観的基準に重きを置いたようでいて,客観的基準とのバランスにも配慮されており,保険契約に妥当しないとの評価は必ずしも適当ではない。「約款」規律では,「契約の内容となる╱ならない」「個別の合意」などの新たなコンセプトの趣旨明確化,および保険契約における「中心部分に対する不当条項規制」の特則を定める特別法の要否の検討が今後の課題となる。

■キーワード

 情報提供義務,契約の内容となる╱ならない,不当条項規制

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 23 − 43

保険法の観点からみた債権法改正の意義

金岡 京子

■アブストラクト

 消滅時効の起算点に係る民法166条1項の改正,法定利率変動制移行に伴う中間利息控除の利率に関する規定の新設等は,保険契約実務に影響が及ぶ可能性があり,保険約款の改訂が必要となる場合もあり得ると考える。約款の内容規制に係る規定の新設は,保険約款規制の実効性を高めるものと評価でき,意義のあるものであるが,保険約款の特性を包含できる明確な適用範囲と判断基準の規律に向けた更なる検討が必要である。また約款の変更に関する規定は,保険契約者等保護の強化という保険法現代化と調和し,適切な約款の欠缺補充が可能となる内容に改められるべきである。

■キーワード

 保険契約と債権法改正,保険約款の内容規制,保険約款の欠缺補充方法

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 45 − 64

民法改正と保険法

―民法(債権法)改正は保険実務に影響を与えるか?―

山下 純司

■アブストラクト

 現在,民法(債権法)の改正についての議論が法制審議会で行われているが,保険実務,あるいは保険法学に対して,この民法改正はいかなる意味を持ちうるのだろうか。実定法レベルでは,一般法としての民法と,特別法としての保険法の競合関係について,場合を分けて考える必要があるが,その影響は限定的である。しかし,原理レベルでは,近時の契約理論の動向をふまえた民法への改正は,かつての民法が説明しきれなかった保険契約という契約類型を,契約一般の理論の中に原理レベルで再統合し説明していくきっかけとなる。そこでは,保険実務の中で発展してきた保険契約法のルールをもう一度見つめ直し,合理性の認められる部分については,新たな民法のルールに立法論あるいは解釈論のレベルで反映させる努力が必要である。

■キーワード

 民法改正,契約,一般法と特別法

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 65 − 80

財閥系生保の戦後の相互会社化

―GHQ指導説の検証―

黒木 達雄

■アブストラクト

 第二次世界大戦終戦時,わが国の生保相互会社は第一,千代田,富国の僅か3社に過ぎなかったが,戦後まもなく発生した相互会社化の波により16社へ急増した。戦後の相互会社化は世界的にも稀有な事象であるが,その理由については諸説あるものの,いまだ定説を得るに至らず十分な解明がされていない。とりわけ財閥系生保の相互会社化の理由として比較的有力視されてきたGHQ(連合国最高司令部)指導説には,裏付けとなる客観的資料の欠如という弱点があり,GHQ指導説否定論者の根拠となってきた。
 こうした中,本稿は,米国のエドワーズ財閥調査団報告書および国務・陸軍・海軍三省調整委員会文書(SWNCC302/2修正文書)によって,財閥系生保の相互会社化が米国政府の財閥解体政策の一環であった事実を明らかにした。これにより,GHQが財閥系生保の相互会社化を導いたとするGHQ指導説は定説となり得る要件を具備したといえる。

■キーワード

 相互会社化,財閥,GHQ

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 103 − 122

生命保険の解約返戻金と保険料の関係に係る考察

大塚 忠義

■アブストラクト

 従来,解約返戻金は保険契約者の持ち分として積立てた金額から一定の控除を行ったものと観念されてきたが,保険法の改正をきっかけに解約返戻金の意義について議論が行われている。しかし,伝統的な生命保険の解約返戻金の性格に係る議論は,現在に至るまで結論がついていない。
 本稿では,経済学の見地から保険料,保険料積立金,および解約返戻金の関係を分析し,現実的な仮定に基づき試算することによって,次のような結論を導いた。
 標準責任準備金の導入前の保険料の計算基礎と保険料積立金の計算基礎が一致するという前提のもとでは,解約返戻金は保険契約者の持ち分として積立てた金額から一定の控除を行ったものであった。しかし,標準責任準備金の導入により,保険料の計算基礎と保険料積立金の計算基礎が一致しなくなった後は,解約返戻金は保険契約者の持ち分から一定の控除を行ったものとはいえない。すなわち,解約返戻金を付随的な給付であるとしてきた主たる根拠が成立しなくなった。

■キーワード

 解約返戻金,保険料積立金,アセットシェア

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 123 − 148

ソルベンシー規制が生保会社の資産運用に及ぼす影響

資産側デュレーションと金利感応度の関係を中心にして

小藤 康夫

■アブストラクト

 わが国の生保は1990年代後半にかけて未曾有の生保危機に陥った。その元凶は深刻な逆ざや問題にあった。だが,その問題を克服する手法として資産負債総合管理(ALM)がある。具体的には資産側デュレーションの長期化戦略からデュレーション・ギャップを縮小化させ,金利変動リスクをゼロにする手法である。本論文では実際に主要生保を対象にしながら資産側デュレーションを計測し,生保危機が発生した頃から徐々に上昇していることを見出している。さらに金利変動リスクに変化が生じているか否かを見るため,生保の株価と金利の関係を計測している。金利に対する株価の変化は時間の経過とともに薄れ,最近に至っては有意な関係が見出されていない。これにより今日の生保はALM を実践し,金利変動リスクを解消しているといえる。

■キーワード

 ALM,デュレーション,金利変動リスク

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 149 − 162

企業年金を巡る近年の動向とその課題の諸相

江淵 剛

■アブストラクト

 現在,わが国企業年金制度は大きな変容の過程にある。これまでにも退職給付会計基準の導入やその制度の多様化など企業年金を取り巻く環境変化の胎動は見られたものの,2012年2月に発覚した投資顧問会社による年金資産消失事件を受けて一気に世間の耳目を集めることとなった。
 高齢化の進展は先進国共通の事象であり,細りつつある公的年金にあって,個人の老後の所得保障として拠出建て制度を中心に職域を通じた企業年金へのアクセス拡充,参加率向上を巡る環境整備が諸外国における現下の潮流となっている。
 公的年金の機能低下が不可避となっている中で,わが国においても公的年金の補完としての企業年金に期待が寄せられる。公的年金の補完を企図する企業年金の機能発揮にあたっては,そのガバナンス及び持続可能性の向上が図られるとともに制度への参加率底上げを巡る政策支援が欠かせない。職域を通じた老後所得保障の充実に向けた議論が強く望まれる。

■キーワード

 企業年金,拠出建て制度(DC),老後所得保障

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 163 − 182

保険価額について

―保険法における定義とその意義―

中出 哲

■アブストラクト

 これまでわが国では,濃淡はあれ,被保険利益を中核において損害保険の契約理論を体系化して,契約の有効性から損害てん補の各論まで説明していたが,両者を結びつけるうえでは,保険価額の概念が重要な機能を果たしていた。学説上,保険価額は「被保険利益の評価額」として理解され,それによって被保険利益は,量的概念に変換されて給付の量的規整まで支配する概念となった。一方,保険法は,保険価額について,伝統的定義を踏襲せずに「保険の目的物の価額」と定義した。この定義には批判もあるが,この定義の結果,契約の前提となる強行法的な利益に関する規律と一定の柔軟性があってよい給付様式の規律を切り離すことになったものといえる。この変更は,イギリス法,ドイツ法,ヨーロッパ保険契約法原則の体系とも整合的である。損害保険契約の理論体系から見た場合,保険価額の定義の変更は,保険法における最も革新的部分といえるのではないだろうか。

■キーワード

 保険価額,被保険利益,損害保険契約の理論構造

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 183 − 202

責任保険契約における防御費用のてん補

澤本 百合

■アブストラクト

 一般的な責任保険商品においては,被保険者が受けた損害賠償請求に関する防御費用がてん補される。防御により,賠償責任を負わず,又は賠償責任の額を抑制できる点では,防御費用は,一見,責任保険契約の損害防止費用に類する。しかし,保険事故を責任負担事故と定める契約において,責任なしとの結論に至る場合には,保険事故が発生していない。よって,その防御費用は,保険事故による損害の発生拡大を防止するものではなく,保険法上の損害防止費用には該当しない。それにもかかわらず,防御費用は,賠償責任損害の発生又は拡大の防止に必要又は有益な範囲であることが求められる。
 また,防御費用が費用保険契約のてん補対象損害であるから,損害賠償請求を受けて防御する際,被保険者は,防御費用損害が不要に拡大しないよう努めなければならない。
 以上のことを確認したうえで,責任保険契約においててん補する防御費用の範囲を合理的に画するために,約款に趣旨を明確に規定するとともに,防御費用の合理化の動機付けを商品設計上織り込むことを提言する。

■キーワード

 責任保険契約,防御費用,損害防止義務

■本 文

『保険学雑誌』第624号 2014年(平成26年)3月 , pp. 203 − 223