保険学雑誌 第608号 2010年(平成22年)3月

新保険法の総論的課題について

― 契約類型間の規律の相違点と,規律の性格の問題を中心に―

村田 敏一

■アブストラクト

 本稿では,新保険法に関する総論的課題として,次の3点を採り上げる。①新保険法では,保険契約の法的類型につき整理が行われたが,特に,傷害疾病定額保険契約(死亡給付の在るもの)と生命(死亡)保険契約間の規律の相違の合理性が,立法論的検証の対象となる。②新保険法が採用した規律の三分法(強行規定・片面的強行規定・任意規定)に関し,各規律の性格を具体的な解釈論を踏まえて解明する必要があるが,特に,強行規定につき,その多様化傾向と従来の契約法における議論からの一定の変質現象が検証される。③既にその解釈が先鋭に対立する論点についてのケース・スタディーから,保険法の一般的解釈方法論を抽出する。

■キーワード

 規律の相違の合理性,規律の性格の解明,解釈方法論

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 3 − 22

損害保険における課題

― 因果関係不存在則,危険変動の問題を中心として―

山本 哲生

■アブストラクト

 告知義務違反による解除の際の因果関係不存在則は片面的強行規定であるが,解除の効果をプロラタ式にすることなどにより,約款で因果関係不存在則を外すことも認められるかどうか検討する。危険増加については,保険料増額手続のあり方,保険料不払いの効果,引受範囲外の場合の効果等について,任意法規範との関係等の観点から検討する。重複保険については,各保険者の責任を独立したものとしてみる立場と連帯債務としてみる立場の双方につき検討する。

■キーワード

 告知義務,危険増加,重複保険

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 23 − 40

生命保険契約及び傷害疾病定額保険契約の課題

―保険金受取人の変更と介入権を中心として―

山下 典孝

■アブストラクト

 本稿では,保険金受取人の変更の効力発生要件に関して,変更の意思表示の通知の発信時,通知の到達時について検討を加える。保険契約者が家族や友人等に保険金受取人変更書類を手渡した時点で通知の発信と考えられるか,コールセンターに連絡をして担当者と保険契約者が具体的に保険金受取人の変更についてやり取りを交わした時点で到達と考えられるか,営業職員に対し保険金受取人変更書類を手渡した時点で到達と考えられるか等,簡単な想定事例で検討を行う。保険者の同意要件を保険金受取人変更の要件とすることに関連する解釈問題,一定の親族のみを保険金受取人に変更する旨の制限付条項がある場合に,遺言による保険金受取人変更についても同じ制限を条項で設けることが許されるか等について検討を加える。

■キーワード

 保険金受取人の変更,保険金受取人の死亡,介入権

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 41 − 60

保険理論からみた保険法

―契約自由の世界からの離脱―

米山 高生

■アブストラクト

 本稿では,保険理論の立場から新しい保険法を検討した。第2節では,制度目的の観点から,保険契約法と保険監督法の相違を明らかにした。前者は保険契約者の私的情報による機会主義的行動を防止することによって保険契約を維持することが目的であり,後者は保険者の持つ保険情報を保険契約者が用意に取得できないことから生じる保険者の機会主義的行動を防止することによって健全な保険制度を維持することが目的であるとした。第3節では,「契約前発病免責」「未成年を被保険者とする保険」,「危険の変動」「被保険者による解除請求」を取り上げて保険理論から検討した。最後に,本稿の検討から到達した二つの認識を明らかにして結語とした。その認識とは,保険法と保険理論の前提とする契約世界の相違について,および保険法における契約者保護の意味についてである。

■キーワード

 保険理論,保険契約法,保険監督法

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 61 − 80

生命保険債権をめぐる利害調整

栗田 達聡

■アブストラクト

 わが国の通説・判例は,保険契約者の債権者による解約返戻金請求権の差押えおよびその取立権に基づく生命保険契約の解約権の行使を認める。その前提には,生命保険契約と金融商品一般をほぼ同一に扱う,生命保険契約上の債権を通常の金銭債権とほとんど変わりないとする考えが存在する。最高裁判決に必ずしも同調しない下級審決定があらわれ,この議論が収束したわけではないことを確認し,いわゆる二分説による生命保険債権保護を再評価する。加えて,最高裁判決が示した権利濫用法理に実効性を持たせるための試論を提示する。

■キーワード

 解約返戻金,差押禁止,権利濫用

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 113 − 131

保険法における遡及保険規整の構造

―「不当な利得」の有無という判断基準について―

吉澤 卓哉

■アブストラクト

 新しく制定された保険法における遡及保険規整は,「不当な利得」の有無で有効性を規律していると言われている。本稿は,遡及保険規整を網羅的に分類したうえで,この点の適否について検討するものである。検討の結果,「不当な利得」の有無で大半は説明できるものの,説明できない類型も若干存在すること,また,「不当な利得」が存在しない類型については,経済的に主観的不確定である場合とそうでない場合があることが明らかになった。

■キーワード

 遡及保険,不当な利得,主観的確定

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 133 − 152

保険モデルに見る時の概念について

大森 義夫

■アブストラクト

 モデルとは社会現象を説明する模型である。大数の法則にもとづく保険モデルP=w・S(P;保険料,w;保険事故発生確率,S;保険金)の等号には現時点での貨幣の等価交換と異時点における貨幣の交換という事柄も含まれている。前者が「時よ止まれ」型の時であり,後者が「時の交換」型の時である。「時の交換」には対称性と非対称性とが内在しており,これを解決する手段は逐一モデルを修正するか,あるいは,事後清算するかである。また,相互会社か株式会社かの経営形態により競争上,有利不利が生じるかどうかを検証する。

■キーワード

 「ネーターの法則」,「市場裁定と複製」,「時の交換」の対称性・非対称性

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 153 − 170

保険法における遺言による保険金受取人の変更

岡田 豊基

■アブストラクト

 保険法における遺言による保険金受取人の変更(保険法42条~45条,71条~74条)について,いくつかの局面を想定して検討する。

■キーワード

 第三者のためにする保険契約,保険金受取人の変更,遺言

■本 文

『保険学雑誌』第608号 2010年(平成22年)3月, pp. 171 − 190