保険学雑誌 第606号 2009年(平成21年)9月

ARTの動向について

―キャプティブ,保険・金融のハイブリッドから金融商品への潮流―

岡崎 康雄

■アブストラクト

  企業および保険会社のリスクマネジメントおよびリスク移転に活用されている代表的なART として,キャプティブ保険会社,ファイナイト保険,インテグレーティッド・リスク・プログラム,保険リンク証券および保険デリバティブがある。本稿では,これらART の意義はどのようなものか,また保険リスクを扱う金融商品の成長にあたっての課題にはどのようなものがあるかについて,コーポレートファイナンスの視点を含む分析を行った。

■キーワード

 ART,リスクファイナンス,金融と保険の融合

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 1 − 20

生命保険経営の企業価値創造

岩瀬 泰弘

■アブストラクト

  生命保険会社の企業価値を自由化以降の実績値を基に巨視的に捉えた。損害保険の経営分析に用いたEVA で見た場合,生命保険会社は株主資本の増強とともにEVA が向上しており健全な経営状態にある。今後の課題としては商品別リスクキャピタルの算定と統合的リスク管理が挙げられる。
  現在,保険会社の資本要件についてはRBC 規制と最低ソルベンシー基準の2つが採択されている。しかしながら米国金融危機を契機とし“保険会社の企業価値は投下資本の収益率のみならず保険負債を含むリスクキャピタルの精査が必要である”との認識で収斂することも考えられる。
  生命保険は超長期の契約を主体としており,1年契約を主体とする損害保険と必ずしも同一に論じることはできないが,利益と資本コストを結び付けたEVA による分析は生命保険会社の経営戦略を探る上で有益な手法の1つであると思われる。

■キーワード

 企業価値,EVA,リスクキャピタル

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 21 − 40

生命保険買取契約の価格構造と契約者還元の可能性

久保 英也

■アブストラクト

  生命保険買取市場が世界的に拡大する中で,大きな買取手数料や被保険利益の乏しい契約の買取など,契約者保護,投資家保護上の問題が顕在化している。その一方で,買取市場は,保険会社が対応しきれない契約者ニーズを引き受けていることも事実である。きめ細やかな規制は今後も重要であるものの,本来的には市場の監視機能を高めることによりこれらの課題に対応する次元に来ている。
  そこで,本論文は,情報の非対称性の緩和や健全な市場の発展に不可欠な買取価格を適正に評価することを目的とする。買取価格は,保険数理を基礎とした保険市場だけでは決まらず,異なる判断基準を有する資本市場との折り合いを経て決定される。このため,責任準備金計算の算出に際し,従来の経験死亡率に安全率を上乗せする決定論的アプローチではなく,モンテカルロ・シミュレーションによる確率論的アプローチにより,保険市場の価格と資本市場の価格とを融合する。これにより,買取業者の超過利得の有無と更なる契約者還元の可能性を明らかにする。

■キーワード

 IVO,必要責任準備金比率,モンテカルロ・シミュレーション

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 41 − 60

韓国保険契約法改正の現況と主な改正論点

報告者 金星泰,翻訳 李芝妍

■アブストラクト

  2008年韓国商法(保険編)改正案は1991年改正から現在に至るまでの学説及び経済環境変化と保険取引実務等を反映し,保険総則・損害保険・人保険全般に亘る幅広い内容を含んでいる。改正案は道徳的危険防止,保険加入者保護等を主要論点とし,保険契約の最大善意契約性の明確化,保険者の約款交付・説明義務違反に対する保険契約者の取消権行使期間の延長,告知義務等と因果関係のない保険事故時に保険者の契約解約権の認定,保険詐欺の防止規定の補強を行った。損害保険分野では,重複保険・保険目的の譲渡,損害防止義務の関連規定を修正し,家族に対する保険者代位を制限した。一方,人保険では年金保険の関連規定,生命保険者と傷害保険者の免責自由,他の生命保険契約の告知義務,団体保険の要件等を整備する反面,心神薄弱者に対する生命保険加入を許容し,ひいては生命保険の受給権に対する部分的差止禁止規定を新設した。

■キーワード

 韓国商法(保険編)2008年改正案,道徳的危険防止,保険加入者保護

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 61 − 79

保険,銀行と経済成長の相互作用に関する研究

韓洛鉉,朴尚範,孫判道

■アブストラクト

  本研究では,1970~2005年の間の韓国の保険,銀行と経済成長の関係を時系列データを通じて分析した。研究結果として,経済成長は,銀行産業自体および銀行と保険産業の相互作用に影響を与え,結局,経済成長に伴い金融仲介機関が発展していることが分かった。一方,銀行産業および銀行と保険産業の相互作用は,経済成長に影響を与えていないが,保険産業は,経済成長と銀行産業の成長に影響を与えていることが分かった。

■キーワード

 保険,銀行,経済成長

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 81 − 100

重大事由解除の効力と保険者の免責について

—保険事故についての虚偽申告を中心に—

遠山 優治

■アブストラクト

  平成20年6月に公布された保険法は,重大事由解除を規定しているが,その解除の効力については将来効としつつ,重大事由が生じた時から解除がされた時までに発生した保険事故等について免責としている。この解除の効力に関する規定は片面的強行規定とされるが,他の保険法の規律や約款規定,たとえば,通知義務や「保険者の免責」との関係は必ずしも明らかではなく,特に,虚偽申告等による場合が問題となる。このような観点から,本稿では,従来,重大事由解除の「遡及効」や通知義務違反による保険者の免責などとして議論されてきた問題について,保険法の下でどのように考えるべきかについて検討する。

■キーワード

 重大事由解除,通知義務,免責

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 101 − 120

遺族厚生年金保険の受給資格としての「配偶者」

髙﨑 亨

■アブストラクト

  本稿は,近時の最高裁判決2件を参考に,遺族厚生年金保険の受給者としての「遺族」,「配偶者」性を検討することを目的とする。
  わが国の厚生年金保険法は,戸籍上の配偶者だけでなく,内縁配偶者にも配偶者性を認め,遺族年金受給資格を付与している。しかし,法律上の配偶者と同様の保護を受けるにあたって,重婚的内縁関係や近親婚的内縁関係にまで,その射程を広げうるかには議論のあるところである。
  本件最高裁判決は,上記いずれの場合も例外的に社会保険上の保護(年金給付)が及びうることを示した事案であり,その共通する要素としての実体,扶養関係に着目して検討した。本稿では,遺族年金受給者としての「配偶者」性が,婚姻法秩序を原則としながらも,例外を認めて拡大している点を,政策的判断として評価できると結論付けたが,課題もあることを付言した。

■キーワード

 遺族厚生年金,事実婚配偶者,重婚・近親婚

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 121 − 136

弁護士賠償責任保険契約に関する一考察

山下 典孝

■アブストラクト

  本稿は,弁護士賠償責任保険契約に関する法的諸問題について,争訟費用の支払範囲が問題とされた裁判例及び弁護士賠償責任保険契約に適用される弁護士特約条項3条1号後段の適用が問題とされた裁判例での争点を中心に検討を加えることを目的とするものである。私見では,被保険者が他の弁護士を訴訟代理人として選任せず自ら訴訟遂行した場合には,保険者に対し争訟費用の請求は認められないと考える。また弁護士特約条項3条1号後段は,弁護士としての職業倫理に反する行為を免責とする趣旨で設けられたものと考えるべきであり,平均的な知識・経験を有する弁護士であれば,法律の専門家としての規範的認識として他人に損害を与えることを具体的に予見でき得るにもかかわらず行為することを意味するものと考える。

■キーワード

 弁護士賠償責任保険契約,争訟費用,認識ある過失

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 137 − 151

ドイツ保険契約法における情報・助言義務に関する保険募集規定とわが国の動向

清水 耕一

■アブストラクト

  わが国の保険法改正の議論の中で,保険募集規制は保険契約法に取り込まれるのではなく,保険業法および一般私法で対応することで足りるとされた。そこで,保険募集に関して保険業法が契約法や民事責任に与える影響,あるいは,保険業法と契約法との役割のあり方についての議論を踏まえながら,保険募集規制を保険契約法に取り込んだドイツ法の議論を紹介し,保険業法ではなく保険契約法に規律する意義を問い直す。

■キーワード

 保険募集規定,保険業法,保険契約法

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 153 − 171

公的医療保険の保険理論

伊藤 豪

■アブストラクト

  2008年4月より高齢者医療制度が創設された。この制度により,高齢者にも保険料支払いを求め,保険料負担と給付水準をリンクさせている点や高齢者世代内での公平性等が確保された点は一定の評価ができる。しかし,社会保険の特徴・公的医療保険の特徴やますます進展する少子高齢社会を考慮すると,現行制度の維持存続可能性が危ぶまれる。その要因は,保険理論の見地から明らかなものとなり,①ハイリスク集団を分離した制度,②保険者機能の後退,③収支相等の原則をめぐる問題点などから,世代間扶養の限界を生じさせている。
  企業・現役世代・高齢者の3者による財源としてのリスクの分散をはかり,保険者機能を強化させるとともに,収支相等の原則を保ち,さらに社会連帯性を強く打ち出し,相互扶助意識を基盤とする公的医療保険制度を構築することが求められている。このような方策を採らなければ,医療保険制度は崩壊してしまう恐れがあるといえる。

■キーワード

 高齢者医療制度,収支相等の原則,相互扶助精神

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 173 − 190

わが国における保険金詐欺の実態と研究

—偽装自動車盗難による保険金詐欺を中心に—

山田 高弘

■アブストラクト

  保険制度は善意の保険契約者を前提として成立している。そのため,不正請求者を放置することは,単に保険会社が保険金を取られることだけでは済まず,保険制度自体を崩壊させかねないものである。
  現在,損害保険業界は一連の不払問題等の影響によって,厳しい状況におかれている。しかし,社会情勢がどうであれ,不正請求事案に厳正に対処していくことは保険会社に課せられた責務である。むしろ,このような状況であるからこそ,保険金詐欺防止への取組みが大切でありその対策が重要となるのである。
  本稿では,わが国の保険金詐欺の実態を偽装自動車盗難による不正請求を中心に分析し,今後業界が取り組むべき不正請求対策について論じる。

■キーワード

 不正請求等防止制度,損害調査費用,保険詐欺罪

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 191 − 209

傷害保険契約における「外来の」事故該当性の判断基準

遠山 聡

■アブストラクト

  本稿は,傷害保険契約の外来性要件について,従来の裁判例及び学説における議論の状況を踏まえて,平成19年の2つの最高裁判決(7月6日判決および10月19日判決)の意義と今後の災害保険金の支払実務における課題について分析検討を行うものである。とりわけ疾病免責条項や限定支払条項(寄与度減額の根拠となるべき条項)は,今後ますますその重要性を増すことは明らかであるが,傷害保険がそもそもどのような目的で制度設計されたものであるのか,派生して,外来性本来の存在意義ならびに判断基準について再度確認しておくことが必要ではないか。このような問題意識から得た結論は,端的にいえば,疾病が間接原因に過ぎない場合であっても,それが結果発生に対して重要な影響を与えているような場合(主要な原因)には,免責事由ではなく,保険金支払事由の枠組み,すなわち外来性要件の充足の問題として取り扱われるべきものと解するというものである。

■キーワード

 傷害保険,外来性,疾病免責条項

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 211 − 230

保険給付の履行期に関する生命保険約款の改正

井上 享

■アブストラクト

  現在の生命保険約款における保険給付の履行期の規定は,保険会社による事実の確認が必要である場合には,例外的に,その確認が終了するまで期限を延伸する旨の但書を伴うことが通常であり,この点は損害保険約款と同様である。ところが,平成9年の最高裁判決において,火災保険についてこの但書の効力が否定され,これ以降,学界,保険業界ともに活発な議論が展開されている。このようななか,保険法において,保険給付の履行期に関する規律が新設された。そこで,生命保険約款の改正の方向性について,実務実態にも鑑みて,主として事実の確認の明確化と履行期限の具体的明示という観点から,検討を試みる。

■キーワード

 履行期約款但書,必要な事実の確認,保険金の支払期限

■本 文

『保険学雑誌』第606号 2009年(平成21年)9月, pp. 231 − 250