保険学雑誌 第670号 2025年(令和7年)9月

地盤液状化課題への地震保険としての役割発揮

—戸建住宅の液状化被害への予防的アプローチ—

大蔵 直樹

■アブストラクト

 2011年東日本大震災において,戸建住宅に甚大な地盤液状化被害が発生した。地盤液状化被害の様相には,地震の揺れによる建物倒壊等とは異なり,住家の沈下および傾斜という特徴がある。東日本大震災では,それまで建物倒壊等の損害を評価する基準しか整備されておらず,地盤液状化損害について適切な評価を行うことができないという問題が浮上した。そのため地震保険では地震発生後の2011年6月に地盤液状化損害程度を評価する基準を追加し,遡及して適用した。
 地盤液状化被害は地震保険にとって「ニューリスク」といえるものであり,そのような視点で捉えた場合,現在の地震保険制度には地盤液状化課題に十分果たしえていない役割が存在し,新たに果たすことによって課題解決に寄与しうる役割を探究することの意義は大きいと判断する。
 そこで本論文は,損害保険料率算出機構刊『地震保険研究』から地震保険として果たすべき役割に関わる方向性を示唆として導出し,さらに地震保険制度と地盤液状化被害等との関係を説明する4つの仮説形成ならびに検定を行った。導出した方向性に沿って仮説検定結果の探究を行い,地震保険として果たす4つの役割の提言に繋げた。

■キーワード

地震保険,地盤液状化,住家の沈下・傾斜

■本 文

『保険学雑誌』第670号 2025年(令和7年)9月, pp. 15 − 44

ソルベンシー規制「第2の柱」の実効性に関する考察

植村 信保

■アブストラクト

 現行の保険会社向け健全性政策の弱点を克服するため,金融庁は経済価値ベースの評価に基づくソルベンシー・マージン比率を採用するというだけでなく,「3つの柱」の考え方に基づくソルベンシー規制を導入する。このうち第2の柱は「規制・監督当局の検証による自己規律の促進」で,その実効性は,金融庁の保険行政が十分機能するかどうかによるところが大きい。
 そこで本稿では,金融庁が毎年公表している「保険モニタリングレポート」に加え,IMF(国際通貨基金)によるFSAP報告書を,世界的に見て進んでいるとされるスイスや,3つの柱の考え方に基づくソルベンシー規制(EUソルベンシーⅡ)を2016年に導入したドイツなど,海外当局と比較検討することで,実態把握を行った。その結果,海外当局に比べると,近年の金融庁ではリスク情報の収集・分析に基づいた監督活動が十分に行われていないという課題が見えてきた。2010年代半ばからの金融庁全体の検査・監督方針の見直しに伴い,従来の立入検査に代わるリスク情報の収集・分析の枠組みを確立すべきだったところ,それが必ずしも実現できていないことがわかった。

■キーワード

第2の柱,保険モニタリングレポート,FSAP報告書

■本 文

『保険学雑誌』第670号 2025年(令和7年)9月, pp. 45 − 65

高額医療と経済的毒性

佐々木 光信

■アブストラクト

 医療における経済(的)負担は,以前から研究されてきた領域である。また民間保険業界の第三分野商品開発のためには,その分析が必須である。一方,経済的負担とは別に,国内外の研究報告において「経済(的)毒性」という表現が,最近多く使用されるようになっている。明確な定義はないが,日本では生活の質および生存に悪影響を及ぼす経済的負担を経済的毒性として使用されている。現在,医療技術の進歩を背景に治療費が高額化し,特にがん診療で顕著である。本稿では,経済的毒性の研究動向および日本における経済的毒性の背景について報告する。

■キーワード

経済的毒性,経済的負担,がん治療

■本 文

『保険学雑誌』第670号 2025年(令和7年)9月, pp. 67 − 87